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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)2572号 判決

原告

坪川猛

被告

田中正道

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、一五〇〇万円及びこれに対する平成五年八月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告の運転する自動車に衝突して死亡した坪川勲(以下「勲」という。)の相続人である原告が、被告に対し、自動車損害賠償保障法三条に基づく損害の賠償を求めた事案である(なお、原告は、損害額一七〇一万九八九〇円のうち一五〇〇万円を請求する。)。

一  争いのない事実

1  勲は、平成五年八月一四日午後七時二五分ころ、京都府相楽郡山城町大字上狛小字北的場五番地先道路(国道二四号線)を歩行して横断中、被告の運転する普通乗用自動車(京都五二り九八〇九、以下「被告車両」という。)に衝突され(以下「本件事故」という。)、左腓骨開放性骨折、脳内血腫、外傷性くも膜下出血、脳挫傷、全身打撲傷、左膝部裂創の傷害を受け、平成五年八月一五日、誤嚥肺炎による呼吸不全によつて死亡した。

2  被告は、被告車両を所有し、運行の用に供していた。

3  勲死亡当時、原告はその子であつた。

4  原告は、本件事故に基づく賠償として、自動車損害賠償責任保険から二九二三万六七八五円の支払を受けた。

二  争点

被告は、原告主張の損害額を争うほか、勲は、本件事故当時、飲酒のうえ、小雨の降る夜間に、交通量の多い国道を横断したもので、しかも、被告が発見した時点では対向車線上のセンターラインよりに静止したまま佇立していたのに、突然被告車両の直前を横断しようとしたものであるとして、過失相殺を主張する。

第三当裁判所の判断

一  損害額

勲が本件事故により被つた損害は合計二九〇七万一七八五円と認められる。

その内訳及び理由は以下のとおりである。

1  療養費 三四万二九六五円(請求どおり)

弁論の全趣旨によれば、勲は、本件事故にあつたことにより、平成五年八月一四日、田辺中央病院において診察を受け、治療費として一四万五〇二五円を支払つたこと、同日から同月一五日までの二日間京都第一赤十字病院に入院し、治療費として一九万五三四〇円を支払つたこと、勲は、右入院のため雑費として一日あたり一三〇〇円合計二六〇〇円を支出したことが認められる。

2  逸失利益 八七二万八八二〇円(請求二〇四一万三七一〇円)

乙第三、第四号証、弁論の全趣旨によれば、勲は、本件事故当時五九歳であり、三菱マテリアル建材株式会社(以下「三菱マテリアル」という。)に勤務し、平成四年には、二六四万九五一三円の年収を得ていたことが認められる。この点、原告は、右収入は低きに失するとし、勲が以前在職していた錦野建設株式会社(以下「錦野建設」という。)では、この一倍半近い収入を得ており、将来的には錦野建設に復帰する可能性もあつたから、勲の逸失利益を算定するにあたつては、平成五年賃金センサス第一巻第一表産業計男子労働者学歴計五五ないし五九歳の平均給与額を基礎とすべきであると主張する。しかし、証人錦野儀一は、最終的には勲を引き取らねばとずつと考えていたと供述するものの、右供述はいかなる趣旨のものであるのか必ずしも明らかでないうえ、かえつて、同証人の証言によれば、勲が錦野建設から三菱マテリアルに移つたのは昭和五〇年であることが認められ、勲が本件事故当時五九歳であつたことも考慮すると、原告の主張するように勲が錦野建設に復帰する可能性があつたとは認めがたく、また、仮に勲が錦野建設に復帰したとしてもどの程度の収入を得られることになるのかについての具体的な証拠は全くなく、他に勲が前記平均給与額程度の収入が得られる可能性があつたことを認めるに足りる証拠はないから、勲の逸失利益の算定にあたつては、勲が三菱マテリアルに勤務して現実に得ていた所得を基礎とするほかないというべきである。

そこで、勲は本件事故当時五九歳であつたから、六七歳までの八年間労働することができたと認められ、前記年収額に、右期間に相当する新ホフマン係数六・五八九を乗じ、勲の生活費として相当と認められる五割を控除すると、勲の逸失利益は八七二万八八二〇円となる。

計算式 2,649,513×6.589×(1-0.5)=8,728,820(円未満切り捨て)

3  慰藉料 二〇〇〇万円(請求二四〇〇万円)

本件訴訟に顕れた諸事情を総合考慮すると、勲の死亡による慰藉料は二〇〇〇万円とするのが相当である。なお、原告は、勲は、原告の父であるとともに、離婚した坪川正江(以下「正江」という。)とも実質的にはなお夫婦の関係にあり、一家の支柱であつたから、右事情を慰藉料の境定にあたり考慮すべきであると主張するが、証人錦野儀一、同坪川正江の各証言によれば、本件事故当時、勲は一人暮らしで、原告の所在は勲や正江にとつて不明であつたこと、勲と正江とは平成四年頃に離婚した後は交際がなかつたことが認められるから、右主張は採用できない。

二  過失相殺

甲第二ないし第四、第六号証及び被告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、本件事故当時、夜間で小雨が降つていたこと、勲は、飲酒のうえ傘をさしながら、左右の動静をよく見定めることなく横断したこと、本件事故現場の南側には信号機のある横断歩道並びに歩行者用の横断地下道があつたことが認められる。

なお、原告は、被告は、勲と衝突する少し前までは時速約七〇キロメートルで走行し、しかも、二五・五メートルもの間前方不注視でいたと主張するが、これを認めるに足りる十分な証拠はない。

本件事故の態様及び右の諸事情に照らすと、勲には本件事故の発生につき三割の過失があると認められる。

三  結論

そうすると、勲の損害合計二九〇七万一七八五円から、過失相殺として三割を控除すると、その額は二〇三五万〇二四九円となるが、これから原告が自動車損害賠償責任保険から支払を受けた二九二三万六七八五円を控除すると、勲の損害はすべて填補されたことになり、被告の支払義務は存在しないことになる。

よつて、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 濱口浩)

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